魚情報 その3

危険な魚たち

何が危険なのでしょう

危険な魚というタイトルを読んで、皆さんは何を想像されたでしょうか。やはりふぐのように毒を持ち、食べると死んでしまう魚でしょうか。それとも、ジョーズのように人間を襲う魚でしょうか。

しかし、パリにはフグはいませんし、生きたサメも魚屋さんにはいません。でも、やっぱり危険な魚はいるのです。今日はそのご紹介です。

食べると危ない毒魚の仲間

1.煮ても焼いても食えないやつ(化学毒魚)

魚の毒でいちばん有名なのは、ふぐの持つテトロドトキシンでしょう。日本ではふぐは高級魚として憧れの的ですから、これのもつ毒も良く話題になります。実はこのテトロドトキシン、フグだけでなく、沖縄地方のハゼやさんご礁に住むタコなどからも発見されています。しかし、少なくとも、欧州で魚屋の店頭に並ぶ魚に、テトロドトキシンを持つ魚はいないようです。

もう一つの有名なのが、熱帯から亜熱帯地方の魚に多いシガテラ毒魚です。バラクーダ(オニカマス)や、フエダイの一種などが有名ですが、例えば日本でよく食べるヒラマサも南方系の群れではシガテラ毒を持つことがあるようです。この毒を持つ魚も、当然魚屋に出回ることはないはずですが、オニカマスなどが市場に出ていた場合は、ちょっと気にした方が良いかもしれません。

これらの毒は熱で分解しませんので、煮ても焼いても食えません。もしフグを見つけても、絶対自分で食べたりしないようにしましょう。

2.生で食うとあたるやつ(血液毒魚)

パリで魚を買って食べる時に一番危ないのがこの仲間です。パリでは基本的に魚を生で食べることを想定していないので、生で食べるとよくない魚も時々売られています。その代表がマルソウダです。マルソウダは血液に弱毒を持ち、肉にも血合い分が多いことから、これを刺身で食べると中毒をすることがあります。このマルソウダ、生で食べても大丈夫なヒラソウダとの区別が難しく、両方同じ名前で売られていますので気をつけましょう。

アナゴやウナギも血液に弱毒を持つので、生では食べない魚です。まあ、日本ではアナゴを生で食べることは滅多にありませんが、こちらではアナゴのサイズが大きいので、生で食べられそうな気がします。もしどうしても生で食べたい場合は、血液を良く洗い流してからにしてくださいね。まあ、そこまでして生で食べる魚ではないと思いますが・・・

.夏とともにやってくる(貝毒)

最後の毒グループが貝毒です。二枚貝や巻貝が主に高水温期に体内に作り出す毒で、神経毒や下痢毒など様々な毒があります。化学兵器禁止条約の対象物質となっているサキシトキシンも貝毒の一種です。

貝毒はカキやムール貝などにも見られますが、「カキにあたった」と言われる場合の原因は、貝毒ではないことが殆どです。それらについては下の「同居人」の項でご紹介します。バイガイ(ツブガイ)等は貝毒で有名で、夏に出荷停止になることも多いようです。

貝毒が発生するのは、海水温が上がり、海水中に特定の藻類が発生した場合などです。日本では市場に出荷する貝類は、必ず貝毒検査がされていますし、多分フランスでも大丈夫でしょう。問題は潮干狩りなどに行って自分で採取した貝を食べる場合です。4〜8月頃が貝毒の危ない季節です。自分で採取した貝を食べる場合は、地元の人に良く聞いて、食べてもよいといわれた場合だけ食べるようにしましょう。少なくとも、ブルターニュでは7月に採取した貝は食べては駄目と地元の人に言われました。

 

触ると危ない危険な魚

1.蜂の一刺し・・・棘を持つ仲間

魚類のうち、進化が進んだ種類、つまりスズキ目やカサゴ目は鰭に鋭い棘を持つ仲間です。料理をする際に、その棘で指を傷つけた経験のある方も多いはずです。特にカサゴの仲間のオニカサゴやミノカサゴ、ハオコゼなどの背びれには強力な毒がありますので指されると大変です。ミノカサゴなどでは死ぬこともあるようです。タイの仲間の鰭にも弱毒があり、アイゴのように強い毒を持つ種もいます。

なお、これらの魚は骨も堅く、食べる時にも注意が必要です。骨を喉に刺してしまうと大変です。

他にも刺に毒を持つ魚がいます。日本で有名なのは、ナマズの仲間のゴンズイ、そして、エイの仲間のアカエイですが、パリで有名なのはViveでしょう。フランス人は子供の頃から、海岸ではViveに気をつけろと教わっているようで、Viveは結構有名な魚です。この海岸にいるViveとは別のViveの仲間が魚屋で販売されており、このViveにもやはり背びれに毒針があります。料理をする時に刺されないように気をつける必要があります。(魚屋で切り取ってくれると思いますが)

2.カマイタチ・・・刃物を持つ仲間

どうして魚が刃物?と思ったかもしれませんが、実はスズキのエラ蓋は切れ味が鋭いことで有名です。料理中にエラ蓋で手を切らないよう気をつけましょう。他にも、Langoustineの殻などは結構鋭い部分があります。

3.ジョーズ・・・鋭い歯や爪を持つ仲間

魚屋で魚を購入する場合は、その魚が生きていることは滅多にありませんので、フグやアナゴに噛まれたり、カニの爪で挟まれて痛い思いをすることは余り無いかもしれません。しかし、タチウオの歯は鋭く危険ですし、TourteauやHomardは生きた状態で販売されることも多いので、気をつけましょう。

危ない同居人?を持つ魚

1.寄生虫を持つ仲間

サバの項にアニサキスのことは書きましたが、他にも魚には寄生虫が沢山います。但し、寄生虫は熱に弱いので、加熱調理をしてしまえば全く問題ありませんし、生食の場合でも、基本的に海水性の寄生虫は人間の体内で生殖できるものは少ないので、あまり心配する必要はありません。アニサキス以外で海水系で問題になるのはホタルイカに寄生する旋尾線虫でしょうが、パリではホタルイカを見ることが無いので、大丈夫でしょう。

パリでの問題は淡水性の寄生虫です。有名なサナダムシなどがその仲間で、淡水魚に多く寄生しています。ですから、淡水魚を生で食べるのは危険なのです。パリには淡水の魚がたくさん販売されていますが、基本的に淡水魚は火を通して食べるようにした方がよいでしょう。

なお、降海性のサケも淡水魚の一種と考えられますので、これの生食には少し疑問があるところです。ただ、市場に流通しているサケの大半が養殖物で、天然物も遡上前か直後に捕獲されているらしいので、余り気にしなくても大丈夫かもしれません。

2.菌やウィルスを持つ仲間

最近一番の話題が、この細菌やウィルスを持つ仲間です。例えばパリで一番問題になる「カキにあたる」、つまりカキによる食中毒は、昔は原因が分からなかったのですが、電子顕微鏡の発達などでこの食中毒の原因が小型球形ウイルス(SRSV)であることが分かってきました。

このウィルスに感染すると、12時間から48時間後に急激な吐き気,嘔吐,腹痛,下痢,発熱を起こします。だいたい3日程度で回復しますが、治療法が無いので、対症療法しかないのが現状です。このウィルス、実は人間由来のもので、カキの養殖地域が人間の排泄物等で汚染されるとカキ体内にウィルスが蓄積するといわれています。ですから、店に入荷した時点で「当たり」のカキは決まっており、その店でのカキの管理状態とは殆ど関係ないのです。つまり、「当たるも八卦、あたらぬも八卦」ってことですね。

最近のもう一つの話題が、人食い菌「ビブリオ・バルニフィカス」です。先日九州で、この菌で死者が出たことが報道され、有名になりました。主に暖かい海水中の甲殻類、魚介類の表面、動物性プランクトンなどに付着しつつ増殖する菌で、通常の健康な人には殆ど問題が無いのですが、肝臓などに障害がある人だと、急激な敗血症的症状を起こし、死亡率は50〜70%に達するというものです。肝硬変の人、免疫機能の弱っている人は、夏場の魚介類、特に甲殻類の生食は控えた方が無難でしょう。

他にも魚介類に付着しやすい菌は沢山あります。魚の生食は、新鮮なものを、きれいに調理して食べることを心がけましょう。

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